不動産が多い家の相続税対策!路線価評価と現金不足を避ける資金準備
遺産の大半が自宅とアパートで、預貯金が少ない。この形は相続税でいちばん詰まりやすい組み合わせです。税額は評価額に対して計算されますが、納付は原則現金です。評価が思ったより高く、納税資金が土地のなかに眠ったまま、という事態が起きます。
先にやることは、売買の希望価格ではなく路線価と固定資産税評価額で遺産を組み直すことです。
目次
相続税評価と売買価格の違い
土地の相続税評価は、市街地なら路線価方式が中心です。路線価は公示価格のおよそ8割を目安に付けられています。自用家屋は、原則として固定資産税評価額で評価します。一方、アパートなどの貸家は、原則として固定資産税評価額から「固定資産税評価額×借家権割合×賃貸割合」を差し引いて評価します。また、2024年1月1日以後に相続等で取得した居住用の区分所有財産(分譲マンション)は、区分所有補正率による調整が必要な場合があります。一般的に相続税評価額は、市場の売買価格より低くなる傾向がありますが、土地の形状や立地、個別の事情によって異なります。
そのため「売れば1億円の家」が、相続税の計算では土地6,500万円・建物1,500万円の8,000万円になることがあります。この低さは有利ですが、売れるまで現金にはなりません。税務署は「売れば払える」では待ってくれず、申告期限は相続の開始を知った日の翌日から10か月です。
地方で路線価が付いていない地域は倍率方式です。固定資産税評価額に、国税庁が地域ごとに定める倍率を掛けます。倍率を確認せず固定資産税の通知書の額だけを遺産に入れると、過少になります。
路線価で土地を概算する
路線価は国税庁の路線価図に、1平方メートルあたり千円単位で載っています。道路に「200D」とあれば、200は1平方メートル20万円です。うしろのDは借地権割合が60%であることを示す記号です。自用地の評価額を一律に60%減額する意味ではありません。借地権割合は、借地権や貸家建付地を計算するときに使います。
自用地の概算は次のとおりです。
路線価 × 奥行価格補正率 × 地積
例:路線価30万円、補正率1.00、地積150平方メートルなら、評価額は4,500万円です。角地や不整形地は加算・減額があるので、概算のあとに税理士か評価明細で補正します。
貸家の敷地である貸家建付地は、借地権割合、借家権割合、賃貸割合を使って評価します。空室が多ければ賃貸割合は下がる傾向があります。ただし、継続的に賃貸されていた部屋について、退去後すぐに入居者募集を行い、空室期間が一時的であるなど一定の条件を満たす場合は、相続時に空室でも賃貸中として扱えることがあります。そのため、空室の期間や募集状況なども確認が必要です。土地そのものを貸している貸宅地は、借地権など土地の上にある権利の内容に応じて評価します。貸宅地の評価に賃貸割合は使いません。自宅の一部を店舗に貸しているなど用途が混在する土地は、全体を自用地として一律には評価しません。利用の実態に応じて区分します。評価を下げたいだけで用途を偽ると、後から否認されます。
自宅の土地なら、特定居住用宅地等の要件を満たす場合に限り、小規模宅地等の特例で330平方メートルまで評価額を80%減額できます。取得した人や、相続開始の直前の居住状況などの要件があり、無条件では使えません。例えば200平方メートル・4,500万円で要件を満たすなら、減額後は900万円です。この減額を見込まずに「土地が高いから納税できない」と決めるのも早計です。
アパートなどの賃貸不動産の敷地も、貸付事業用宅地等の要件を満たせば、200平方メートルまで評価額を50%減額できる場合があります。ただし、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された土地は、原則として対象外です。もっとも、相続開始の日まで3年を超えて継続して特定貸付事業を行っていた場合など、例外もあります。また、相続人が貸付事業を引き継いで申告期限まで継続し、土地も申告期限まで保有するなどの要件があります。ほかの小規模宅地等の特例と併用する場合は、限度面積の調整も必要です。
現金500万円でも納税資金が足りなくなるケース
次の家庭を考えます。相続人は子2人、配偶者はすでにいません。借入金などの債務や、加算対象となる生前贈与などはないものとします。
- 自宅土地の評価 6,000万円(この例では小規模宅地等の特例を使わない前提)
- 建物 800万円
- 預貯金 500万円
- 葬式費用 200万円(相続税上、控除対象となる費用)
香典返しや、墓地・墓石の購入費用などは、原則として控除の対象になりません。
正味の遺産額は7,100万円です。基礎控除は3,000万円+600万円×2人=4,200万円、課税遺産総額は2,900万円です。法定相続分は2分の1ずつなので、1人あたりの取得額は1,450万円です。1,450万円×15%−50万円=167万5,000円。子2人の相続税の総額は335万円です。法定相続分どおりに取得した場合の各人の税額は167万5,000円ですが、実際の納税額は、各人の課税価格に応じた按分や税額控除によって変わります。
別居の子でも、家なき子特例など一定の要件を満たせば、特定居住用宅地等として330平方メートルまで80%減額できる場合があります。「別居だから絶対に使えない」ではありません。主な要件は、被相続人に配偶者がいないこと、被相続人の自宅に同居していた相続人がいないこと、相続開始前3年以内に日本国内にある取得者本人、取得者の配偶者、取得者の三親等内の親族、または取得者と特別の関係がある一定の法人が所有する家屋(相続開始の直前に被相続人の居住の用に供されていた家屋を除く)に居住したことがないこと、相続開始時に取得者が住んでいる家屋を過去に所有したことがないこと、相続した土地を相続税の申告期限まで保有することです。海外居住者などについては、国籍や相続税の納税義務の区分による要件もあります。このほかにも細かな適用要件があり、個別の状況で使えるかどうかは変わります。土地6,000万円が330平方メートル以内で、それらの要件を満たすなら、評価額は6,000万円×20%=1,200万円になります。利用状況を確認せずにこの数字を使うことはできません。この計算例は、要件を満たさない前提です。
預貯金500万円から葬式費用を払ったあと、残る現金は300万円前後です。税額335万円には届きません。土地を売れば足りても、売却には買主、測量、居住の明け渡しが必要で、10か月に収まる保証はありません。
延納(年払い)や物納は例外です。延納は原則として担保の提供が必要で、利子税もかかります。延納税額が100万円以下で、かつ延納期間が3年以下のときは、担保は不要です。物納は要件が厳しく、希望すれば認められる制度ではありません。最初から現金を用意する方が確実です。
現金を残す三つの手段
- 死亡保険金の非課税枠を使う。被相続人が保険料を負担していた死亡保険金で、受取人が相続人である場合に、500万円×法定相続人の数まで相続税が非課税です。この500万円は1人ずつ別枠ではなく、法定相続人の数を掛けた総額の限度です。子2人なら限度額は1,000万円です。相続を放棄した人や第三者の受取分には使えません。保険料の負担者・被保険者・受取人の組み合わせによっては、相続税ではなく所得税や贈与税の対象になります。上の例で相続人がこの1,000万円を受け取れるなら、税額と葬式費用の現金に充てられます。詳細は生命保険金の非課税枠を参照してください
- 生前に一部を売却し、現金化しておく。売却益には所得税がかかりますが、相続後の換価より分割協議が単純になることがあります
- 各相続人の納税資金を確保する。各人の納税額は、相続税の総額を各人の課税価格の割合に応じて按分し、各種の税額控除を反映して計算します。課税価格には、相続や遺贈で取得した財産だけでなく、生命保険金などのみなし相続財産、債務や葬式費用、生前贈与の加算なども関係します。土地を多く取得する人は、その人の納税額を現金や保険金で払えるかを合わせて確認してください
死亡退職金についても、被相続人の死亡後3年以内に支給が確定した退職手当金等で、相続人が受け取ったものには、500万円×法定相続人の数の非課税枠があります。相続人以外が受け取った場合は、この非課税枠を利用できません。
分け方で特例と納税が両立しないとき
同居の配偶者が土地を取得すれば特例は使えても、配偶者の税額軽減で一次の税額が小さくなることがあります。財産が配偶者に集中すると、二次相続で子の税負担が増えます。一次だけを0円にしても、納税資金の問題が二次へ移るだけ、ということがあります。二次で子が別居していても、家なき子特例などの要件を満たせば、同じ土地に小規模宅地等の特例を使える可能性があります。使えるかどうかは個別の要件によります。
換価分割(売って代金を分ける)を選ぶなら、誰の名義で売却するのか、売却代金をどのように分けるのかを遺産分割協議書に書きます。譲渡所得税の納税義務者は、実際の権利関係や売却の形態に基づいて判断されます。協議書に負担者を書いても、それだけで納税義務者が決まるわけではありません。売却の前に、名義と税負担の関係を税理士へ確認してください。譲渡所得は、相続税評価額との差額ではありません。原則は次の式です。
譲渡所得 = 売却価格 − 取得費 − 譲渡費用
相続した不動産の取得費は、原則として被相続人の取得費を引き継ぎます。相続開始日の翌日から、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売却するなど、要件を満たす場合は、納付した相続税の一部を取得費に加算できる特例(取得費加算の特例)を使える可能性があります。売却した人に相続税が課税されていることなども要件です。使えるかは譲渡の時期や相続税額で変わるため、適用前に税理士へ確認してください。取得費が分からない古い土地は、譲渡所得税が相続税より重くなることがあります。
優先順位は「誰が住み続けるか」「特例を使えるのは誰か」「各相続人が自分の納税額を現金で払えるか」の三つを同時に満たす組み合わせです。一つだけ最適化すると、残り二つが崩れます。
まとめ
不動産の相続税は、路線価×地積と建物の固定資産税評価額が出発点です。売買価格より低くても、納付は原則として金銭の一括です。預貯金が税額に届かないなら、申告期限の前に売る計画か、要件を満たす保険の非課税枠で現金を用意します。
評価額を入れた税額の見当は、相続税概算シミュレーターで一次・二次相続のトータル税額を計算するで確認できます。自宅の80%減額が使えるかは小規模宅地等の特例の要件と突き合わせてください。
よくある質問
Q.売れば1億円の家は、相続税でも1億円ですか?
土地は路線価、建物は固定資産税評価額で計算します。売れば1億円の家が、相続税の計算では8,000万円程度になることがあります。路線価がない地域は、固定資産税評価額に倍率を掛けます。
Q.現金が少なく、税額の方が多いときはどうしますか?
売却が10か月に間に合うとは限りません。子2人なら死亡保険金の非課税枠は1,000万円まであり、受取人の口座に現金を用意できます。延納や物納は、希望すれば認められる制度ではありません。
Q.自宅を配偶者に渡せば、納税の問題は終わりますか?
一次の税額は下がっても、土地は二次相続に残ります。二次相続で子が同居していなくても、家なき子特例などの要件を満たせば、同じ80%減額を受けられる場合があります。ただし、被相続人に配偶者がいないことや、同居していた相続人がいないことなど、複数の要件を満たす必要があります。誰が住むか、誰が特例を使えるかを事前に確認してください。
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